2015年5月29日金曜日

海事事故と裁判管轄

昨日の国際取引の研究会で、報告者が Lotus 号(フランス)とBoz-Kourt号(トルコ)の衝突事故に関する1927年の常設国際司法裁判所の判断(沈没した船の船籍であるトルコの管轄を認めた)を紹介し、現在ではブラッセル条約により、旗国(または船長または船員の本国)が刑事管轄権を有する、そうでなければ、偶然の事情により要求される過失の程度が異なる、と解説をした。

それに対して、他のメンバーから、便宜置籍船が多いのではないか、リベリアの便宜置籍船の衝突事故の管轄はリベリアとしてよいのか?という疑問を投げかけた。
確かに便宜置籍船には船の運航と旗国との間にはほとんど関係がなさそうだ。

そもそも、海上交通において要求される注意義務の程度が国によって異なるというほど異なっているのだろうか?
海上を行き交う船が船籍によって注意義務の程度が異なっていたら、危ないのではないのか?

事故後トルコに寄港していたロータス号の船員に対して、寄港地であり、被害船の船籍国であるトルコに管轄を認めることは、それほどおかしなことなのだろうか?

ネットで検索すると、「国際海事条約における外国船籍に対する管轄枠組の変遷に関する研究」(国土交通省)が見つかった。
http://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/pdf/kkk77.pdf

それによると、旗国主義の原則は維持しながら、便宜置籍化の進展や事故による海洋汚染等の環境変化を受けて、旗国主義を代替、補完する枠組を求める動きが見られ、排他的な旗国主義原則が後退していう過程にある、とされている。

海事は、法律がそれを取り巻く政治的、技術的な環境の変化にともなって変化することをダイナミックに示す分野なのだろう。
とても興味深い。



2015年5月28日木曜日

FIFA役員逮捕(続)

昨日ブログで、なぜFIFAの役員の収賄がアメリカで犯罪となるのか、適用法と容疑がわからない、と書いた。

本日、米国司法省(DOJ)のサイトのJUSTICE NEWSの広報を見て疑問は解決。
http://www.justice.gov/opa/pr/nine-fifa-officials-and-five-corporate-executives-indicted-racketeering-conspiracy-and

適用法は連邦法であるRICO、被疑事実は、ゆすり、不正送金、マネーロンダリング、司法妨害等。
http://en.wikipedia.org/wiki/Racketeer_Influenced_and_Corrupt_Organizations_Act

また、CONCACAFの本部は起訴された行為の期間、米国内にあった、とされている。

マフィアか暴力団みたいな組織だったという認識か。

なお検察官は、「起訴は我々の捜査の最終章ではない」と明言し、IRSは捜査を継続するとしている。

2015年5月27日水曜日

FIFA 役員が米国連邦汚職法違反でスイスで逮捕

FIFA の執行役員数名が会議のため滞在していたチューリッヒのホテルで逮捕され、米国に引き渡されるとのニュース。

http://www.nytimes.com/2015/05/27/sports/soccer/fifa-officials-face-corruption-charges-in-us.html?_r=0

過去20年以上にわたってワールドカップの入札、マーケッティング、放映権で汚職が広がっていたとされている。

この記事の解説によれば、スイスとアメリカの条約で、スイスは税金犯罪については引き渡し拒否権があるが、通常の犯罪についてはスイスはアメリカへの引き渡しに合意している、とされている。スイスが税金犯罪については引き渡しに応じないというのが面白い。

また、米国連邦法は、司法省に外国に居住する外国人の対する広い権限を与えており、米国銀行の使用、または米国のインターネットプロバイダー使用といった米国との関わりでも米国の管轄が及ぶ、と解説されているが、今回の容疑の多くは、Concacaf (Confederation of North, Central America and Caribbean Association Football) に関するものとも書かれているので、事件と北米との関係が銀行やプロバイダーの利用といったものより強いものがあるのかもしれない。
Concacafの代表者が2006年のワールドカップのチケット再販売による不法な利益をあげていたともされている。

ところで、FIFAは国際機関なのだが、政治家でも政治団体でもない。FIFAの役員が賄賂を受け取る行為は、米国の公務員が賄賂を受け取るのと同じに扱われるのだろうか?
FCPAは、外国公務員への贈賄を禁じており、「外国公務員」の定義には、public international organaizationの職員が含まれている。しかし、FCPAは贈賄を禁じる法律である。そうでなければ、米国会社が外国の公務員に贈賄をしたら、収賄した外国公務員まで米国の法廷で米国の法律で裁かれることになる。ロッキード社からの贈賄を日本の大臣が日本で受け取ったら米国の法廷で裁かれる、ということはないだろう。

適用法と容疑の関係がよくわからない。



2015年5月21日木曜日

汚職リスクのある会社の買収

Ligorner弁護士の講演(M&A取引における反汚職法のデューデリと解決法)で、デューデリ失敗事例としてTitan買収事案とRAEシステムのJV増資(中国)事案が挙げられ、成功事例としてGEとAlstomの事案が挙げられていた。

GE とAlstomの事案とはどのようなものだったのかと検索したところ、2014年12月の記事が見つかった。


フランスの会社であるAlstomの電力部門はグローバルに展開し利益を挙げており、GEが同社の電力部門を買収することになった。他方、Alstomの電力部門に関しては数年前から贈賄の噂があった。
2014年12月にAlstomは米国司法省に贈賄について有罪答弁をし、米国司法省史上最高額の罰金を払うことで合意をした。
GEがAlstomを買収しても、贈賄に関してGEが責任を承継しないことを司法省が明言し、GEは贈賄は買収にあたり織り込み済みでなんら問題はないと述べた。

となっている。

デューデリの過程で贈賄の事実を発見した場合、きちんと手当をし、会社のシステムを刷新し、贈賄による企業価値の毀損分を考慮して買収をすれば、過去に贈賄をした会社を買っても大丈夫、という例。


2015年5月19日火曜日

Ligorner弁護士(M&Aにおける汚職リスクの評価と対処について)

IPBA2015香港のプログラムの中に、M&A時における汚職リスクの評価と対処について(Anti-corruption Due Diligence and Solution in M&A transactions)、というセッションに出席しました。

昨年10月にNYSBAの国際委員会の会でウイーンに行ったとき、汚職防止に関する国連の取り組みなどの講演を聞き、その後米国のDodd-Frank法についての資料を読んだりしていたので、この分野には興味があります。

セッションはパネル形式で4人のパネリストが講演しましたが、その中で、Lesli Ligorner弁護士の講演がひときわ素晴らしかったです。
http://www.simmons-simmons.com/en/People/Contacts/L/Lesli-Ligorner

経歴を見るとNew York州の弁護士で、Simons & Simons の中国事務所のパートナーとなっています。

会社買収時のリスク調査の方法、リスクを発見した後の対応方法について、明快に、歯切れよく説明する様子の格好よさに、プレゼンテーションのお手本を見る思いでした。

よくまとめられた適当な量の資料が会場のスクリーンに映し出されていたので、終了後に資料をいただけないかとお願いすると、快く送っていただきました。
いや、この人、本当に格好いい。

2015年5月15日金曜日

ナイジェリアの弁護士

IPBA2015香港でのtea break の時間にナイジェリアから参加している女性弁護士と知り合いました。

ナイジェリアへの投資案件を扱っており、日本企業の顧客もいるとのことでした。

ナイジェリアでの会社設立の手続きについて尋ねると、外国投資家のために政府がワンストップサービスを提供しているとのことです。

日本の企業の進出状況を尋ねると、自動車メーカーが進出しており、これは政府が自動車をナイジェリア国内で生産させる方針をとったためとのことでした。

また、ナイジェリアは、天然資源が豊富だが、国内で産出されるガス、石油はほとんどが輸出向けで、国内のエネルギー供給が不安定なのが課題とのことでした。

環太平洋(Inter Pacific)と名がついているのですが、スイスの仲裁機関の案内があったり、ドバイ、アフリカからの参加者に出会ったり、環太平洋地域に限定されない会になっていました。

2015年5月14日木曜日

国際裁判管轄(家族法)

国際裁判管轄(家族法)の改正にあたり、大阪弁護士会から意見書を提出することになり、PTで親子関係のパートを担当。

集中検討会などを経て、各担当者が原稿を提出し、順調に仕上がっていたところ、この意見書の成年後見のパートに某委員会から反対意見が出された。

日本において登記された任意後見契約に関する手続きについて、日本の裁判所が管轄を有する、という意見だったのだが、任意後見人候補者が日本に居住していること、という要件を加えるべきだとの意見が出された。

その理由は、任意後見人が任意後見契約登記後に外国に転居した場合、その者を成年後見人とすることは、契約後の事情変更により、委託者の契約時の思惑と異なる可能性がある、成年後見人が外国に居住していると、後見監督人の監督が及にくい、という2点だった。

契約時に予期しない転居かもしれないが、予定されていたかもしれない。もし予定されていたのであれば、そういった事情のもとで委託していたのに、委託した人が成年後見人にならない、という事態が生じる。

受託者を選任することが委託者の利益を害する場合であれば、裁判所は選任をしない、という判断をすればよいだけである。
また、法律上、本人のために特に必要があれば、法定後見開始決定をすることができる、とされているし、後見監督人からの任意後見人解任請求の制度もある。

反対意見は、当該任意後見人を成年後見人とすべきか、ということと、裁判管轄権の有無を区別しそこなっているように思われる。

日本に登記されている任意後見契約に日本の裁判管轄権が及ばないことがある、ということには違和感がある、というより大いにおかしい。

PT意見に対する他の委員会の反対意見にさらに反対意見を提出するというのはどうかとも思ったが、上記理由をPTのMLに提出したところ、PTの意見として提出しようということになった。

無事、原案どおり常議委員会を通過したとの連絡があった。



2015年5月13日水曜日

外国送達(アメリカ)

アメリカ在住者から日本にいる相手を訴えたい、ハーグ条約に基づく書類の送達を日本の外務省にしたいから日本の弁護士を雇いたいとのメールが届く。

この場合のハーグ条約は、「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」を意味するということはすぐにわかったが、日本の弁護士を雇って日本の外務省に書類を提出したい、の意味がよくわからない。

この条約の10条は、留保をしない限り、外国にいる者に対して直接に裁判上の文書を郵送する権能を妨げない、としており、日本はこの条項を留保していない。
そして、アメリカでは、裁判所ではなく、原告が被告に訴状を送付するシステムであるため、アメリカの原告から直接日本の被告に訴状が届く、という事態が生じうる、ということは学生時代に習った。なお、ドイツはこの条項を留保しているので、ドイツ国内にいる被告に対してこのようなことが行われることはない。日本の法制度からすれば留保すべき条項のはずだが、当時の担当者が、当事者が直接訴状を送付する制度が世界に存在すると思っていなかったために留保しなかった、という話を聞いたことがある。

それはそれとして、メールの内容は、この条項で直接送付したい、という話でもない。

日本の裁判所に、外国にいる者を相手として訴訟を提起するときには、裁判所に訴状を提出し、裁判所から最高裁判所、最高裁判所から日本の中央当局、日本の中央当局から被告所在地の大使館、大使館からその国の中央当局、というルートになる。
条約にも、「嘱託国の法律上権限を有する当局又は裁判所付属吏は」、「受託国の中央当局に対し」、要請書を送付する、となっているから、嘱託国の当局でも裁判所の官吏でもない被告所在地の弁護士が原告代理人として「受託国の中央当局」に訴状を送付する、ということはないだろう。

よくわからない。

アメリカの送達条約の実務がわからないが、条約上は中央当局か裁判所の関与が必要なので、アメリカの弁護士にまず相談するようにと返事を返した。

その後、ネットで検索していると、http://www.usmarshals.gov/process/foreign_process.htm が見つかった。アメリカでの外国送達は、連邦裁判所執行官への申し立てとなっている。

その他、外国にいる被告を訴えるのに裁判管轄があるか、という問題もある。

人も物も取引も簡単に国境を越えるが、システムの違いや国家主権が関与すると、種々面倒くさい。