2023年4月4日火曜日

不正競争防止法ー営業秘密(令和5年3月18日名古屋地裁判決)

 名古屋地裁で、令和5年3月18日、不正競争防止法違反(営業秘密開示)事件で無罪判決がだされたとの記事。

 記事によれば、開示された情報が営業秘密に当たるかどうかが争点であり、裁判所は「情報は抽象化一般化されすぎていて一連一体の工程として見てもありふれた方法を選択して単に組み合わせたものにとどまる。営業秘密を開示したものとは言えない」との判断をしたとなっている。


 行為の主体は「会社の専務取締役と従業員」で、行為は「自社工場内でホワイトボードに同社の製品の製造に使う装置の情報を伝えたこと」。ここには争いがないらしい。

詳しい事情はわからないが、そもそもこの態様で営業秘密開示の刑事事件?という気がする。


 不正競争防止法における営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」(不正競争防止法2条6項)である。

 そのため、「秘密として管理されていること」「有用であること」「公然と知られていないこと」の要件を満たしている必要がある。営業秘密の例として引き合いに出されることが多いのはコカコーラのレシピである。金庫に厳重に保管されていて数名した知らない、と言われている。これだと、秘密として管理されているし、販売に有用な情報であるし、公然と知られていない、ので、営業秘密であることに間違いはない。


 コカコーラほど厳重に管理するのはむつかしいだろうけど(都市伝説かもしれないが)、オフィス内で従業員がだれでもアクセスできるキャビネットに営業秘密を記載した書類を入れていたりすると「秘密として管理されている」という要件を満たさないし、他社でも一般に用いられている技術を厳重に管理して営業秘密だと言っても「公然と知られている」ものなので秘密とならない。

 営業秘密として管理するなら、「営業秘密」とファイルに明記し、鍵のかかるキャビネットに保管し、鍵にアクセスできる担当者を限定し、従業員には、営業秘密の閲覧·持ち出しは禁止されていることをしっかりと伝える、くらいのことはしてほしい。ファイルを机の上に出しっぱなしにして従業員や外部者の目にふれるようなこともしてはいけない。なかなか大変。


 取引相手との守秘義務契約に、提供した情報、物は秘密として管理すること、という条項があると、受け取った情報や物の管理をするのにどのくらいのスペースが必要になるだろうか、と心配になる。しかも、限定をつけずにすべての情報、物を秘密として管理すること、という条項になっていたりする。契約締結前だと、秘密として管理する対象を限定してもらえないか交渉した方がよいとアドバイスするが、本契約前の契約交渉のための守秘義務契約だと、そのチェックに弁護士費用をかけたくないという思いも、そのための交渉に時間をかけたくないという思いも、とにかく本契約の締結まで進めたいという思いがあることも理解できる。悩ましい。


 さて、冒頭の事件に戻ると、検察は不正競争防止法違反で起訴しておきながら、「営業秘密」の要件を満たしているかの検討をしていたのか、という疑問が生じる。無罪の理由が証拠不十分とか、新たな事実が発覚した、とかではなく、法律で定められた定義にあてはまらない、というものである。刑事事件で起訴された人の負担を考えると、無罪になったからよいとはとてもいえない。


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