2015年7月24日金曜日

アップルミュージックは独占禁止法に違反するか?

アップルが定額制の音楽配信が、反トラスト法に違反しないか米国の議員がFTCに調査の要請をしたということがニュースになっている。

日本では、2015年4月28日に最高裁で、JASRACの定額制の使用料規定が独占禁止法に違反するとの判決が出されているので、この判決が参考になるだろう。

最高裁判決の理由は以下のようなものである。
 参加人(ジャスラッック)の年間の包括許諾による利用許諾契約によれば、使用料は包括徴収によることとされ、当該年度の前年度における放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額を当該年度の放送使用料とする、とされている。
 本件で問題とされた行為は、包括徴収による利用許諾契約を締結し、これに基づく放送使用料の徴収行為(本件行為)である。
 
 本件の市場は、放送事業者による管理楽曲の放送利用にかかる利用許諾に関する市場(本件市場)、である。

 平成13年10月の著作権等管理事業法の施行に伴い、文化庁長官の登録を受けた業者は被上告人を含む4社である。

 平成18年10月に被上告人が参入するまでは、本件市場において放送使用料の収入を得て事業を行っていた管理事業者は、参加人のみであった。

 独占禁止法2条5項の「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かの判断基準は以下のようなものである。
  自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するもの
   かつ
  他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するもの
 
 判断要素(総合的に考慮)
   本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況
   参加人及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異
   放送利用における音楽著作物の特性
   本件行為の態様は継続期間等の諸要素

 事実認定
  1 平成13年10月の時点で、管理、委託及び利用許諾の各市場は参加人による事実上の独占状態だった。
  2 管理楽曲に係る利用許諾、不正利用の監視、使用料の徴収、分配を行うには多額の費用を要するため、他の管理事業者による各市場への参入は相応の困難を伴う。
  3 大部分の音楽著作権について管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾契約を締結することなく、他の管理事業者との間でのみ利用許諾契約を締結することは想定し難い。
  4 放送番組の楽曲選択は、基本的に代替的な性格を有している。(複数の楽曲の中から選択されるのが通常である)
  5 放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映される余地がなく、他の管理事業者の管理楽曲を有料で使用する場合は、追加の放送使用料の負担が生ずることとなる。

以上により、最高裁は、JASRACの包括契約が、他の管理事業者の本件市場への参加を著しく困難にする効果を有する、とした。

さて、アップルミュージックはこの判決の理由にあてはまるのか?
  検討にあたり、
   市場は、個人に対する音楽配信市場とする。
   行為は、定額制で無制限の音楽配信契約とする。
  
  2015年7月時点で、個人に対する音楽配信事業はほぼ独占されていたか?(あるいは、現時点でほぼ独占されているのか?)
  新規参入は困難か?
  音楽著作権のうち、大部分を管理しているか?
  楽曲選択は代替的か(事業ではなく、個人なので、事業より好みが反映されるはず)
  利用割合は反映されず、他の管理事業者の楽曲を使用するときは追加の負担が生じることは本判決と同じ。

 このように比較すると、個人に対する配信事業は、管理する音楽著作権の割合、とりわけ人気の高い音楽著作権を管理する割合で、結論が分かれそうだ。
  



 


2015年7月17日金曜日

会計処理条項違反罰則(FCPA)

先日「危機的状況下の企業の防衛」-Dealing with Companies in Crisis- のセミナーを聞きに行ったとき、FCPA(米国外国公務員贈賄防止法 Foreign Corrupt Practice Act)には贈賄禁止条項違反の規定だけでなく、会計処理条項違反の規定があり、形式犯である会計処理条項違反の罰則の方が重い、という説明があった(村上康聡弁護士)。

どのくらい重いかというと(村上弁護士のレジュメから引用)

賄賂禁止条項違反は
自然人 
  5年以下の拘禁
 または/及び  
  25万ドル以下 または 
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金
法人
  200万ドル以下 または
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金

会計処理条項違反
自然人 
  20年以下の拘禁
 または/及び
  500万ドル以下 または
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金
法人  
  2500万ドル以下 または
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金

罰金の上限の差を見ると、おそらく賄賂による利益より、違法会計による利益の方が10倍以上大きく、かつ、賄賂よりも社会に及ぼす影響が大きいのだろうと推測される。あるいは賄賂よりも、違法会計処理の方が簡単で、誘惑が大きいのかもしれない。

東芝の不正会計は結局合計でどのくらいになったのだろうか?1500億円?2000億円?
1ドル120円で換算すると法人の罰金額の上限2500万ドルは30億円。

     
    


2015年7月16日木曜日

ルピア使用の義務付け(インドネシア)

インドネシア中央銀行が2015年7月1日から国内取引にルピア使用を義務付けたとの記事

https://www.jetro.go.jp/biznews/2015/07/f95e7aa92f59a648.html

ルピアの為替レート安定を目的とするものとの解説がなされている。
ルピアの需要を高めると同時にドル需要を抑えることで、ルピアが下がるのを止めるということらしい。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0OP23Z20150609

「主権を守る意味合いがある」とのコメントがなされている。

我が国ではどうなっているかというと、
民法403条 外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済することができる
とされている。

文言上国内取引に限定されていないし、「履行地における為替相場」となっているから、外国が履行地であっても、日本の通貨で弁済ができるように読める。
国家主権、国内における通貨の強制通用力というのが背景にあるなら、国内取引に限定されていなければならないはずだから、理由は別にあるのだろう。

402条1項但し書きには、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない、として、他の種類の通貨での弁済を認めず、3項で、外国の通貨の給付を債権の目的とした場合に1項を準用するとされている。

このことから、契約で、外国の通貨での給付が義務づけられていれば、指定された外国の通貨で給付しなければならず、403条は、外国の通貨で額を指定しているが、外国の通貨で給付をすることまで規定していない場合に、日本の通貨で支払うことができる、と読むことになるのだろう。

そうすると、契約において、支払額をドルで指定しただけだと、円で支払がなされるのを拒絶できず、ドルでの支払いを確実にしようとすれば、支払額をドルで指定したうえ、ドルで給付する、としておく必要がある。

403条の文言は、「債務者は」となっているので、外国通貨で払うか、内国通貨で払うかの選択ができるのは債務者のはずだが、昭和50年の最高裁判決は、債権者は、外国通貨、内国通貨いずれによっても請求することができ、債権者が外国通貨で請求したときのみ、債務者は内国通貨で支払うことの選択ができ、債権者が内国通貨で請求したときには外国通貨での支払いができない、とした。

また、403条には換算の基準時という論点もある。

さて、インドネシア。
インドネシア国内で買い付けを行う輸出業者はルピアを準備する必要があり、また、進出企業がインドネシアで営業所の賃料を払うにもルピアを準備する必要がある。
為替変動が大きいと、ルピアで資産を保持するのもリスクだし、支払いにあたりいつ換算するかで価格が動きやすい。

それではドル決済を認めた場合、どうなるだろうか?
国内取引きでドルがルピアと並んで流通し、ドルの流通量がかなりの割合を占めると、中央銀行の金融政策はルピアにしか及ばないので、ほとんど効果がなくなるおそれがある。
ルピアの流通量をコントロールしても、国内にはコントロールの及ばない別の通貨が流通しているからである。

ここまで書いて、ギリシアはどうするのだろうと思っていたら、こんな記事が出ていました。
ギリシア、一時的なユーロ圏離脱のほうが適切

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0PQ0EG20150716

ユーロ圏を離脱すれば、ドラクマに戻り、ドラクマが安くなれば、輸出(あるいは観光産業)が好調となり、経済状態がよくなると期待できるのでは?