2014年11月13日木曜日

監査役等委員会(平成26年会社法改正)

弁護士会館で開催された京都大学の斎藤先生による会社法改正についての講演は素晴らしかったのだが、監査等委員会というのが何なのかいまひとつぴんとこない。
なぜ取締役なのか、監査役会とどう違うのか。

考えていてもわからないので、ジュリスト特集号の記事にあたってみると、前田先生が制度の概要を書かれていた。
それによれば、
1 社外取締役を活用しやすくするために考えだされた機関形態
2 3つの委員会をセットで置くことを要求せず監査等委員会だけで足りる
3 従来の監査役に取締役会での議決権を与えることにし、その者を監査等委員と呼ぶのに実質が近い

とされている。

なんてあっさりと、かつ、的確な説明なんだろう。
納得。

子の海外返還(ドイツ)(ハーグ条約)

「ハーグ条約初の海外返還」の記事。
日本人母が、条約発効後、ドイツから、5歳児を、子の父に無断で日本に連れて帰っていたとされている。

「条約発効後」「ドイツ(国外)から」「5歳児」「子の父に無断」「日本に連れて帰る」で条約の返還の要件を満たしている。

「返還」というと今後子供はドイツで暮らすことが確定したかのような響きがあるが、ハーグ条約は、子どもの養育について実質的なことを決める手続きではない。

子の監護に関して両親の間に争いがあれば裁判所で審理することになるが、親が子を居住地から連れ出した結果自分に有利な場所(または相手にとって裁判をするのが困難な場所)で子に関する裁判をすることになることを防止するため、無断で連れ出した場合は、子を元の居住国に戻し、そこで裁判をするようにというものである。

どうしても子を連れて居住地国を出て行く必要があるのに他方の親が同意しないようなときは、裁判所の許可を得て移動するという法制度の国もある。

条約が定めている返還は元の居住国への返還であって、他方の親への返還ではない。元の居住地国の裁判管轄内に戻すことで足りる。
また、子を戻すことを求めており、必ずしも子を連れ出した親が戻らなければならない、ということもない。

元の居住国に子を戻した後、子の監護の裁判をすれば、子が日本人親と共に日本で暮らすことが認められる結果になる可能性もある。

母が幼い子を連れて外国に出た場合、残された父は子とのつながりが維持できれば、返還までは求めていないケースもある。
そのような場合は、調停による話し合いで解決できる可能性が高い。両親による話し合いでの解決が子どもへの負担を軽くする。

今回のケースは、外務省の努力による返還とされており、弁護士や調停センターは活用されなかったようであるが、条約の要件を満たしていれば返還しか選択肢がない、というわけではないので、弁護士への相談、調停センターへの申立も視野にいれていただければ、と思う。





2014年8月11日月曜日

ケニアへの投資

ケニアで会社を設立したいというクライアントがいるのだが、ケニアの弁護士を紹介してもらえるか、と知り合いの先生から電話。

ケニア
バイエルに勤務していたころ友人と観光に行ったことがある。
ずいぶん以前だが、当時でもナイロビは都会だった。
それはともかく、Hastingsの同級生にはアフリカからの留学生はいなかったし、IPBAでもNew York 州弁護士会の年会に出席したときにもケニアの弁護士と名刺交換をした記憶がない。

イギリス法系なのだが、と言われ、イギリスの法廷弁護士の知り合いに聞いてみたらどうかと思いついた。

彼女にケニアの弁護士を紹介してもらえるかとメールを送り、返事を待っている間にJetroのサイトでケニアの会社設立に関する情報を探すと、ケニアの外国投資庁で外国の投資家にワンストップサービスを提供していることがわかった。

ケニアの外国投資庁のサイトを日本語訳したりしているうちに、イギリスからケニアの弁護士に心当たりがあるから紹介するとのメールが届く。
サイトを見るとナイロビの渉外弁護士事務所。かなりの規模がある様子。

こんな風に世界はつながっているのか。

2014年7月11日金曜日

流出した顧客名簿を他社が使用したことの立証への備え

ベネッセから流出した顧客名簿をジャストシステムが使用したとのニュース。

業者にとって顧客名簿は財産である。潜在的顧客の住所等を収集するのには時間と手間がかかる。また、競合関係にある他社の顧客の住所や氏名がわかれば、他社から顧客を引き抜くことも可能になる。そのような名簿は、秘密として管理されていれば、営業秘密として法律で保護される対象である。

とはいえ、競合他社が自社の顧客に広告を送っただけでは、自社の名簿が相手の手に渡ったことの証明にはならない。独自に作成した名簿だと言われと証明が困難である。

自社の名簿に特徴的な内容が、相手が使用した名簿に含まれていれば、自社の名簿が使用された可能性が高まる。

今回の事件を報じる記事には、一部の顧客が実際と異なるマンション名を伝えていたのが含まれている、記載されているのは、名簿が流出したことを示唆するものだろう。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140710/crm14071020430016-n1.htm

名簿が流出した場合に備えて、会社の役員の自宅を顧客名簿にいれておく、住所の一部を意図的に間違えたものを入れておく、という方法があるため、実際と異なるマンション名は、顧客の住所ではなく、会社によって意図的に記載されていた会社関係者のものかもしれない。

なお、ジャストシステムは名簿業者から買ったと言っているとのことだが、名簿が不正に取得されたものであれば、「業者から買ったから問題がない」ということにはならない。

不正競争防止法2条には、不正取得が介在したことを知って、もしくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得する行為、不正開示行為があったことを知って、もしくは重大な過失により知らないで営業秘密を使用する行為も不正競争となるとされている。

顧客名簿が不正取得、不正開示されたものであることを知っていた場合だけでなく、知らなかったことについて重大な過失がある、とされれば、その取得や使用は不正競争行為となる。

2014年6月13日金曜日

インターネット広告の地域を制限する判決

昨日の友新会不正競争防止法研究会で取り上げられた判決の主文がちょっと不思議な感じがする。

東京地裁判平成25年11月21日判決商号等使用禁止請求事件
主文
(1) 被告は,各種広告,インターネットのホームページ,事業案内, 営業用パンフレット,営業用封筒,便せん,社員用名刺及び看板等 に表示する又は新聞雑誌等の記事として掲載させる等の方法で,老 人介護に関連する事業の営業表示として,「メディカルケアプラン ニング」又は「MEDICAL CARE PLANNING」(小文字の表記を含む。)の名称を使用してはならない。
(2) 被告は,関東地方(東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県,栃木県及び群馬県)において,前記(1)記載の方法で,老人介護に 関連する事業の営業表示として,「株式会社MCP」の商号及び別紙標章目録(2)記載の標章を使用してはならない。

(1)はわかるのだが、(2)は前記(1)の方法で関東地方において商号、商標を使用してはならない、となっている。前記(1)の方法には、「インターネットのホームページ」が含まれている。

つまり、(2)は地域を限定してインターネットのホームページで商号、商標を使用してはならないとされている。

インターネットのホームページ上の商号や商標の表示を一定地域で閲覧不能にする方法はあるのだろうか?

この主文を見て思い出したのが、国際取引における地域限定独占販売契約におけるインターネットによる広告の扱い。

アメリカの会社が欧州各国のそれぞれの会社と独占販売契約を締結し、欧州各国の会社は自国以外でactie salesをしてはいけないとの内容が契約に含まれていた場合に、インターネットで広告すると条項違反となるか。

Prof. Dodgeの国際取引法のクラスで、インターネット広告はURLに付されている国名で判断する、と聞いた記憶がある。
.jpなら日本における広告であり、.ukなら英国での広告となる。
仮に.jpのページが韓国語で書かれていて明らかに韓国向け広告であっても、そのような事情は斟酌されない、ということだった。

アメリカならそうだろう。
英語で書いたら英国向け、スペイン語で書いたらスペイン向けと言われても困る。
それではこのルール、日本でもこれでよいのだろうか?

仮にこのルールが日本でも妥当するとして、最初の問題に戻るが、日本国内の地域限定インターネット広告というのは、やはりおかしい。
日本国内一律に.jpで、.kanntoとか.hokkaidoというのはないと思う。

形式的に過ぎるのか、法律が現実と乖離しているのか、あるいは何か誤解があったのか。
(原告の請求は地域を限定していないので一部認容判決)
広告禁止の地域を制限してもらっても被告としてはあまり嬉しくないと思う。




2014年3月20日木曜日

外国公務員への贈賄罪(不正競争防止法)

日本交通技術(JTC)が外国の公務員に事業の受注の見返りにリベートの提供をしていたことが発覚したとの記事。
事業の受注の見返りにリベートを渡すことは、公平な競争を阻害する行為であり、国内法では、不正競争防止法18条(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)で禁止されている。
条文はちょっと読みにくいが、分解すると以下のようになる。

何人も、外国公務員に対し、
国際的な商取引に関し
営業上の不正の利益を得るために、
外国公務員に、その職務に関する行為をさせ、
             もしくは、させないこと
    または、
       その地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ
                               もしくは、させないこと
   を目的とし 
金銭その他の利益を供与し、
     または、その申し込み
         もしくは、約束
をしてはならない。

利益供与の対象は外国の公務員のみであり、私人間のリベートは含まない。(英国法では私人間を含む)

禁止されている行為は、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得る目的とするものであり、商取引に関しない事柄について賄賂を渡すことは規制の対象外である。

米国では連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)で、外国公務員に対する贈賄と禁じているが、1つの除外規定と、2つの抗弁事由が置かれている。
  政府のルーティン行為は規制の対象から除外する。
  抗弁事由
   1 当該国でその支払いが合法であるとの法律(written law)があるとき
   2 製品やサービスのプロモーション、デモンストレーション等のための旅費、宿泊費など善意の合理的な支払い

FCPAの名宛人は、SECに書類提出義務のある会社、米国企業、米国市民、米国居住者、米国の領域内で行為する非米国企業及び非米国人とされている。
なお、米国内での行為には、送金にあたり米国内の銀行口座が関与しても該当するとされる。

米国企業でコンプライアンスを担当する弁護士とFCPAについて話をする機会があったので、同法がすべての外国公務員への贈賄を規制していない理由を尋ねたところ
  1 国際取引の公正な競争を保護することが目的
  2 贈収賄が常態化している国で米国企業の関係者のみすべての贈賄を禁止すると、米国民に身体、生命の危険がお   よぶおそれがあるから

とのことだった。







2014年3月13日木曜日

技術海外流出で逮捕状の記事(不正競争防止法)

朝刊に、東芝の技術(営業秘密)が従業員に持ち出され、外国企業に流出したことで逮捕状が出されたとの記事。


記事によれば、東芝と技術提携をしていた半導体メーカーの元技術者が、東芝の工場内でデータをコピーし、その後韓国企業に転職し、データーを転職先に提供した疑いがあるとのこと。

不正競争防止法21条が適用されたのだろう。

不正競争防止法でデーターが保護されるためには、「営業秘密」である必要がある。

ある情報が「営業秘密」であるとされるためには、

1 秘密として管理されていたこと
2 有用な情報であること
3 その情報が公知のものでないこと

のすべての要件を満たしている必要がある。

有用でかつ秘密の情報を有していても、誰でも簡単にアクセスできるような管理をしていては、盗まれても「営業秘密」が盗まれたという扱いにはならない。

「営業秘密」の開示を受けた者が一定の行為をしたときには、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金という規定が置かれている(21条)。

21条1項には営業秘密の侵害について1号から7号まであるけど、記事からすると、これかな?

3号
営業秘密を保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次の方法でその営業秘密を領得した者
ロ 営業秘密記録媒体等の記録の複製の作成

7号 
不正の利益を得る目的で2号で営業秘密を取得し、その営業秘密を使用し、または開示した者

記事によれば営業秘密を持ち出したとされるのは福岡県内の50代男性。2008年ころにコピーして持ち出し、韓国企業に転職したが、現在は韓国企業も退職、とされる。

韓国企業に転職し、持ち出した営業秘密を開示した後、数年で退職して日本に戻った?

転職の誘いをかけ、営業秘密を持ってくれば多額の報酬を払うという話だったのか、あるいは、勤務先を解雇されることを予想し、営業秘密を持ち出して転職に利用しようとしたのか?

従業員の解雇、転職の際に営業秘密が持ち出されないよう管理するのは困難。
秘密としてきっちり管理をしていても、それをすり抜けてコピーがなされてしまう。

そもそも営業秘密がコピーされ、持ち出されたことを証明することさえ容易ではない。
どうやって発覚したのだろう。

ちなみに、新日鐵がポスコに営業秘密を盗まれたときは、ポスコが中国企業に営業秘密を盗まれた事件の裁判で、中国企業が、盗んだ情報はポスコの情報ではなく、ポスコが保有する新日鐵の営業秘密だと言ったために発覚したと先日の弁護士会の研修で聞いた。

今後同様の事件が起きるのをどうやって防止するか。
営業秘密の持ち出しが刑事事件となることを世間に示すことで抑止力となるか。