2012年5月15日火曜日

外国のサーバーにある広告に日本法は適用されるか?


Facebookに連鎖販売取引に該当する広告が掲載されており、その広告が特定商取引法の規制に違反した内容であるとの指摘がなされている。それによるとFacebookの広告掲載審査はアメリカ法にのみ拠っているとのことで、論者は被害者がFacebookを不法行為で訴える可能性を示唆している。

これを見たときまず思ったのは、広告を掲載しているサーバーはどこにあるのだろうということだった。サーバーが日本の領域外にあるとき、日本の特定商取引法の規制はそのサーバーに保存されている広告に及ぶのだろうか。
裏返しに考えると、日本のサーバーにある広告が世界のどこかの広告規制に違反していたら、サーバーの管理者が違反した国で訴えられるのだろうか。そうすると世界のすべての国の広告規制を調べてからでなければ、インターネット上に広告を置くことはできなくなるのではないか?

この問題についてネットで検索すると、植村幸也弁護士のブログに景表法の域外適用に関する見解が書かれていた(弁護士植村幸也公式ブログ:みんなの独禁法。「景表法の域外適用」)。同弁護士の見解をざっくりまとめると、外国のサーバー上にある表示の場合、原則として言語、つまり日本語で記載されていれば日本法の適用あり、例外として他言語であっても日本市場に(のみ?)向けられているとわかるものには適用、となっている。
端的に日本に向けてdoing business がある場合、とまとめてもよさそうなのだが?

それはそれとして、連鎖販売の被害者が広告掲載者を訴えるとすると根拠は不法行為。そこで法の適用に関する通則法を見ると、同法17条で不法行為債権の成立及び効力は加害行為地の結果発生地とされている。
アメリカ法上合法の広告(かつ日本法上違法な連鎖販売広告)を日本で見た人が購入し、被害が発生した場合、不法行為の成立の成否を判断するのは日本法による、ということになる。

それでは不法行為の成立が日本法による、というのはどういう意味だろう?
日本の特定商取引法の規制に反している広告による被害なので、不法行為の成立、となるのか、特定商取引法が外国のサーバー上の広告に適用されるのか否かという域外適用の問題をまず前提問題として日本法によって解決し、適用あり、となって初めて不法行為が成立する、となるのか。

仮に日本の法に違反しているから当然に不法行為が成立、となると、サーバーに広告を保存し公開するときには、あらゆる国の広告規制を調査する必要が生じてしまう。これでは、インターネット上での広告はリスクが高すぎるのではないか。
そうすると、域外適用があるかどうかが不法行為の先決問題となる、として絞りをかけるのが妥当と思われる。

となると植村弁護士の見解のように原則日本語の表示に適用、というのはわかりやすいルールである。
しかしやはり、ルールとしては「日本に向けたdoing business」であり、日本語というのはその指標だという気がする。
また、日本に向けた、というのは曖昧である。インターネットに方向性はない。しかし、「日本にのみ」というのも狭すぎる気がする。日本語を読めるすべての人が広告を理解することができ、広告のターゲットとなりうるので、日本にのみ向けた広告などありえないだろう。

そうすると、「もっぱら日本に向けた」とすることになるのだろうか?

そもそも特定商取引法の保護対象は何か、がまず発見されなくてはならないだろう。日本人の保護なのか、日本の領域内の取り引きなのか。

同法1条を見ると「もって国民経済の健全な発展に寄与」というお定まりの文句が書かれている。あまりこのような定型文言を重視するのもどうかと思うが、これによれば、日本の領域内の経済活動の保護、が保護法益であると考えられる。

そうであるなら、外国のサーバー上の広告が「もっぱら日本の領域に向けられたものであり、日本の領域内でその効果が発生したとき」に同法の域外適用をする、ということになるのではないだろうか。日本の領域内で日本語が使用されており、かつ日本以外で日本語を使用している人が少ないということをふまえると、日本語が使用されているというのは、その重要な指標である。

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